画家、文豪、時々シブヤ。

画家や文豪の人生より、生きるのが楽になるエピソードを紹介しています。

男のプライド、悲しい氷山

男というものは、自尊心で作られたの氷山のようなものである。

 

昨晩、長女が戸棚にしまってあった私の長財布からお札を抜き出し、紛失させるという事件が起きた。すぐに見つかるだろうと思って家庭内を捜索したのだが、案外見つからない。さすがの私も焦ってきて探しているのに、夫はのんびりした感じで、長女本人も全く探しておらず、全く協力してくれない。家族と過ごしているはずが、孤独とはこういうことなのだな、と噛み締めた。

 

やるせない思いになりつつ探し回る私へ、夫は「そんなに長女に対して怒らなくてもいいじゃない」「手に取れるような場所に置いておく方が悪いんじゃないの」と毒を吐いてくる。これが相当堪えた。応対するのも面倒なので、無視をし続けていた。

 

やっとのことで見つかり安堵した直後、「子供にあんまり感情的になって怒るものじゃないよ」と正論をぶつけてきて、ここで私の怒りが爆発した。あれがダメだ、これがダメだと、とにかく口うるさい彼である。やれテーブルクロスが気に入らない、キッチンのシンクを常にきれいにしておけ、子供達が朝ごはんを食べてる時に洗濯物をするな……、とにかく神経質で、わがままなのである。

 

普段は適当に受け流せるのだが、その日はお腹がとにかく痛く、心身共に言葉を受け付けていることもできる状態ではなく、「そうやってダメだしばっかりするのやめてくれない?少しは共感してよ!」と、本音が出てしまった。すると、私が反撃するといつもなるのだが、彼は「もういいよ……」と言い放ち、拗ねた顔をして寝室に引きこもってしまった。

 

これが三歳の男の子ならかわいいものだが、もういい年をしたおじさんがやっているのだから、相当タチが悪い。とりあえず子供達に歯磨きをさせて、絵本を読んで寝かしつけた。しばらくして、微塵も自分悪いとは思っていなかったが、とりあえず翌日は土曜日なので、翌日の機嫌に響くと後々面倒だから、寝室へ行き「さっきはごめんね」と謝った。だが、謝罪の言葉だけど不満なのか、引き続き仏頂面をしたまま、スマホを持ってトイレへ入っていってしまった。

 

夫の自尊心は氷山のように高い。普段は世間体や理性という海面によって大部分が隠されているのだが、潮が引いてしまうきっかけがあると、そのそびえ立つプライドが姿を現すのだ。それは学歴社会における強者の奢りであり、自分が正当に扱われていない社会と家庭への不満でできた、悲しいハリボテのような山であった。

 

体だけが大きくて、中身は幼稚。とにかく機嫌が悪くなると一切言葉を受け付けなくなるのは、勘弁していただきたい。時たま「もっと別の人と結婚すれば、今頃は……」と過去の自分を悔いるのだが、まあ結婚なんて誰としても一緒のようなものだろう。結局、1人でいれば楽だという事実は変わらない。

 

巨大豪華客船が氷山に激突してぶっ壊してしてくれればいいが、現実はそうもいかない。幼い頃から培われた自尊心という氷山は悲しくそびえ立つ。生き物も寄せ付けず、船からも避けられ、ただ悲しく海にたゆたうのみである。再び潮が満ちてきて、海水で覆われてくれることを、ただ待つばかりである。